『チェイサー』『哭声 コクソン』のナ・ホンジンが原案・製作を担当したタイ・韓国合作のホラー映画『女神の継承』。
作品を手掛けたのはハリウッドリメイクされた『心霊写真』や『愛しのゴースト』で注目を浴びたタイのバンジョン・ピサンタナクーン監督。
韓国ホラー作品としても高い評価を得る『哭声 コクソン』のアナザー・バーションともいわれている本作は、そのコンセプトをしっかりと受け継ぎながらもピサンタナクーン監督ならではの映像センスとタイの空気感をうまくミックスさせた新感覚ホラーとして仕上がっています。今回はこの作品の描く恐怖世界を探ってみましょう。
【STORY】
タイ東北部の村で脈々と受け継がれてきた祈祷師一族の血を継ぐ女性、ニム。
ある日彼女の姉の娘で、村の役場に勤めるミンは突然原因不明の体調不良を訴えはじめ、数々の奇行ののちにまるで人が入れ変わったように乱暴な性格を見せるようになってしまいます。
彼女の身を案じた母はニムに助けを請います。ニムはミンに対して祈祷をおこなう決心をしますが、ミンにとり憑いていたものの正体を探る中で、彼女はそれが想像を絶する恐ろしいものであることを知るのでした。
【ここに注目】
「『哭声 コクソン』のアナザー・バーション」という触れ込みからは、あの伝染し続ける恐怖の要素も感じさせることろであります。
本作は祈祷師という運命を背負う女性と、その家族に付きまとう恐怖との戦いを描いたホラー。作品では祈祷師ニムの視点を中心に物語が紡がれていくわけですが、ホラー映画の金字塔ともいえる映画『エクソシスト』を彷彿する一面も垣間見られます。
その一方でユニークなのは、主人公の位置づけにある祈祷師ニムが、祈祷師であるという運命にあるその理由として、大きな存在が彼女の中にあるという設定にあります。
この設定はニムを大きな恐怖の存在に取りつかれるミンとの対極的な位置づけとしており、ミンを取り巻く人たちを通して一人の人間の運命という点に帰結しない、人々の複雑な思いを立体的に描いています。
そして衝撃のクライマックス、そのあとに続くニムの表情へ。クライマックスのビジュアル的な恐ろしさは言わずもがなという恐怖感を示す一方で、ラストに見えるニムの表情と言葉はまさに大どんでん返し。物語の大詰めに見せつけられる恐怖を、見るものに「終わらないもの」として焼き付けていきます。
【あわせてここも見どころ！】
他方、ユニークなのは物語がニム自身のドキュメンタリームービー撮影を視点として画を構成しているところにあります。
近年のB級ホラー作品などでは、同様に『エクソシスト』よりインスパイアされたと見られる作品も多く排出されてきましたが、本作は一線を画しちょうどテレビなどで放映される番組撮影のような手法を巧みに利用しリアリティーや緊張感、スリルやスピード感などあらゆる面で練り上げられたシーンが張り巡らされています。
これらの映像からは「安価な仕掛けながらよくできたシーン」などといった飛び道具的な評価は当てはまらず、映画のセオリーをしっかりと押さえていると感じられるものであります。
近年「アジアンホラー」なるジャンルが、一つの大きなムーブメントとして話題を呼んでいるところであり、本作もこのジャンルの旨味をたっぷりと味わえる作品であります。
日本公開としては7月初旬より公開された台湾ホラー映画『哭悲（こくひ）／THE SADNESS』などもありますが、全く対照的なカラーの作品であるといえるでしょう。
【作品情報】
『女神の継承』
監督：バンジョン・ピサンタナクーン
出演：ナリルヤ・グルモンコルペチ、サワニー・ウトーンマ、シラニ・ヤンキッティカン
2021年製作／131分／R18+／タイ・韓国合作 原題：The Medium
配給：シンカ
公式サイト：https://synca.jp/megami/
(C)2021 SHOWBOX AND NORTHERN CROSS ALL RIGHTS RESERVED.
0コメント