映画レビュー!『手紙と線路と小さな奇跡』優しい空気感の中に描かれた「成し遂げる」ための強い思い

1988年に韓国で初めて民間の手により作られた駅舎“両元(ヤンウォン)駅”をモチーフに、駅作りに奮闘する人々の姿から、愛と感動の場面を描いた物語、映画『手紙と線路と小さな奇跡』。

日本の人気小説から映画化された作品を韓国リメイクした映画『Be With You ~いま、会いにゆきます』で観客を魅了したイ・ジャンフン監督が待望の3年ぶりとなる新作を手掛け、再び春の暖かさのように染み入る感動を届けてくれます。

キャストには実力派がズラリ。交通に不便な村に駅を作ることを夢見る青年ジュンギョン役を、『それだけが、僕の世界』などの若手実力派パク・ジョンミンが務めます。

さらにジュンギョンをサポートするクラスメイトのラヒ役に『EXIT イグジット』などにも出演したK-POPグループ少女時代のユナ、ジュンギョンの父親で機関士のテユン役にベテラン俳優イ・ソンミンと豪華な面子が名を連ねています。

ほのかな笑いの中に、深く感動的な人同士のつながりを描いた本作。今回はこの作品を紹介します。



【STORY】

自宅から学校まで行き来できる道は線路の上だけ。なのに肝心の駅がない村。その村の人たちは危険な線路の上を歩いて町に出向くという生活をしていました。

数学の天才で学校の先生からも一目置かれながら、一般常識には疎く、ちょっとおっちょこちょいな村の青年、ジュンギョン(パク・ジョンミン)は姉ボギョン(イ・スギョン)と村に残り、高校まで往復5時間の通学路を通っていました。

彼は村に駅を作ることを夢見て日夜、大統領府に手紙を送っていました。そんなジュンギョンの非凡さを一目で見抜いたクラスメイト、自称“女神(ミューズ)”のラヒ(イム・ユナ)は、彼のために一肌脱ぐべく、説得力のある手紙を書くため正書法の講義を“押しつけがましく”始めます。

そしてある日、彼女はジュンギョンの強い思いを汲んで、テレビに出て有名になるための“高校生クイズ”の出場を彼に勧めます。意外にも奮闘を続け、ついにジュンギョンは1位の大統領賞獲得に向けた数学大会の受験にまで進んでいきます。

駅の実現に向けた努力は続くジュンギョン。彼が“駅を作りたい”を思う気持ちには、実は心に秘めた深い傷が関係していたのでした…。



【ここに注目】

本作は実際にある「世界初の私設駅」をモチーフとしていますが、物語自体がその駅建設の経緯につながるわけではなくどちらかというと現実的ではない表現を含んだものとなっています。

しかしこの物語には「私設」というポイントにこの物語の大きな論点がおかれています。当然「世界初」といわれるほどのものであるため、駅建設までには多かれ少なかれ誰かの視点では高いハードルが存在するわけです。

そしてそれを成し遂げたということに「人の思いの強さ」、つまり駅建設という高いハードルを何としてでも乗り越えようという強い思いが存在したことを示しています。

またその「強い思い」に関して、必ずしも前向きな思いだけがことを成し遂げるわけではないということも示しています。この物語で「駅を作ろう」という目的への大きな推進力となったのは、実は主人公ジュンギョンのどちらかというとネガティブな思い。幼いころに抱えた心の傷を癒すための唯一の道でした。

それでもその思い、心の傷をさらけ出した上で、最後には思いをポジティブな方向に向けていくことに、物語が訴える真意、メッセージが表されているようであります。


池井戸潤のヒット小説「下町ロケット」第二作の「ガウディー計画」の発端を彷彿するこの展開ではありますが、イ・ジャンフン監督は前作『Be With You ~いま、会いにゆきます』でも愛する人を失った者の人生再生をファンタジックに、そして感動的に描き切っただけに、本作も優しく心にしみるような感動作を作ってくれました。



【あわせてここも見どころ!】

また本作の見どころは何といっても若手俳優パク・ジョンミンと、韓国ドラマ、映画界ではベテランとして抜群の知名度を誇るイ・ソンミンそれぞれの個性がぶつかるシーンにあります。

実力派として近年注目されるパク・ジョンミンは、ジュンギョンという役柄を冒頭ではどちらかというと「さえない青年」というイメージで描きますが、その巧みな表現で、最後には人々を強く引き寄せ前向きに生き生きと人生を突き進む男性へと変身させ、見るものをポジティブな気持ちへと変えてくれます。

また「コワモテの上司」「信念を曲げない一匹狼」的な役柄も多い個性的なイ・ソンミンも卓越した演技を見せます。

血気盛んな役柄の多かったこれまでとは対照的に、田舎町でつつましく子供とともに暮らす父親の姿を巧みに表現。内に秘めた複雑ながら熱い気持ちを子供にぶつける情熱的な演出を、パク・ジョンミンとの共演シーンで存分に見せており、この物語の真意を深く、豊かに表現しています。

もちろんヒロイン陣もかなり充実、イム・ユナ、イ・スギョンというステキな女優二人がジュンギョンの成長に大きな影響を与えていくさまは、映画のほのかに感じる春のイメージをさらに深く感じさせてくれることでしょう。


ここ広島でも、近年では芸備線あたりの廃線、廃駅という話題がたびたびメディアでも伝えられているのを、ふと思い出しました。

難しい問題である一方で、コンスタントにこのような話題が出るというのは広島に住む人たちのある意味「強い思い」が、この映画で書かれているもの同様に存在しているようにも感じられ、なにか本作にも繋がるものがあるのではないかという気もします。



【作品情報】

キャスト

パク・ジョンミン『ただ悪より救いたまえ』『それだけが、僕の世界』

イ・ソンミン『KCIA 南山の部長たち』『工作 黒金星と呼ばれた男』

イム・ユナ『EXIT イグジット』『コンフィデンシャル/共助』

イ・スギョン『沈黙、愛』

チョン・ムンソン「賢い医師生活」

スタッフ

監督:イ・ジャンフン

原題:기적(英題:Miracle:letters to the President) 製作国:韓国

製作年:2021 ジャンル:ドラマ

配給会社:クロックワークス

コピーライト:© 2021 LOTTE ENTERTAINMENT & BLOSSOM PICTURES CO., LTD. All Rights Reserved.

画角:シネマスコープ カラー:カラー

音声:韓国語 字幕:日本語字幕:小西朋子

映画公開日:2022年04月29日 上映劇場:4月29日(金) シネマート新宿 ほか 順次公開

上映時間:117分 レーティング:PG12

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