突如現れた相談者の奇妙な話から、想像を絶する不安感に飲み込まれてゆく心理カウンセラーの様を描いた映画『カウンセラー』。
本作は2019東京フィル メックス新人監督賞・準グランプリ受賞経験を持つ酒井善三監督による短編作品。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭にて、短編映画では初のSKIPシティアワード受賞という快 挙を達成し、2021年10月の下北沢トリウッドでの2週間上映ではその好評からアンコール上映が行われ、続いて全国劇場での公開も順次決定と、映画ファンからは非常に強い興味を得た作品であります。
短編作品ながら異例の反響を浴びた本作。今回はこの作品が放つ強力な魅力の根源を探ってみましょう。
【STORY】
心理相談所に勤める心理カウンセラー・倉田真美。
現在妊娠6ヶ月を迎え産休前最後の出勤日となった日に、倉田が予定していた最後の相談者を見送った直後に、診療所に一人の女性・吉高アケミが訪れました。
予約なしで訪れた彼女に倉田は困惑するも、やむなく「相談内容だけでもお聞きしましょうか」と伝えます。
そして診療室で問診をする倉田。第一声、吉高は「…妖怪が見えるんです」と自分の症状を語り始めます。
彼女の口からはついて出てくる奇妙な経緯。ところがその物語は次第に倉田を妄想に駆り立て、不安の渦へと引きずり込んでいくのでした…。
【ここに注目】
この作品は、いわゆる心理学などでいわれる「情感感染」という現象が大きなポイントとなっており、主人公・倉田真美とキーパーソン。吉高アケミという二人がカウンセリングの場で巻き起こる出来事が物語の主軸となります。ユニークなのは、二人の立ち位置が様々なタイミングで入れ替わり、カウンセリング自体は事実なのか?あるいは一人の女性が抱いた妄想のシーンなのか?と見る側の認識に混沌を引き起こすところにあります。
このカオス状態は、いつしか見る側自体にも「情感感染」を起こしているかのように伝搬し、非常にスリリングな雰囲気を醸してきます。作品で見られる展開は、構成作りで失敗すると単なる混乱となって作品に描く意味を台無しにしていますが、二人の関係の描き方やその関係があたかも入れ替わったような導線の張り方、タイミングなど、短尺の作品に様々な要素をうまく詰め込む技量の高さもうかがえ、作品を手掛けた酒井善三監督の高いセンスも垣間見えることであります。
一方、不安をかきむしるような表情を持つ吉高(西山真来)、その不安感を常に表情にたたえたような倉田(鈴木睦海)が劇中で見せるたたずまいは、不思議と「理にかなった」という印象もあり、キャスティングのよさもうかがえます。
また衝撃のクライマックスから続けて最後にナレーションにて語られる倉田の言葉は、ある意味混沌とした現代を強烈に印象付けており、作品を見終わった後に残る複雑な感情に様々な意味を与え深い爪痕を残すことでしょう。
【著名人コメント 】
※一部のみ。順不同
かなり久々に“ヤバいもの”を観てしまった…… 脚本、構成、場所、キャスト、間合い、画、音響、全てに不安が張り詰め、 薄気味悪い空気が満ち満ちてくる── かなり久々に“ヤバいもの”を観てしまっ…
あれ? ……気がしただけ?……マズい、憑り込まれる。 酒井善三監督……凄い才能だ!ぎっちり憑り組まれた長編が観たい。
──清水崇(映画監督)
冒頭2分半、その日最後の患者の診察を終えたカウンセラーが洗面所で手を洗っていると、 その背後にとつぜん「やっぱり、予約とかないとだめですよね」と声がする。 びっくりして顔を上げると、鏡には怯えた様子の女性が写っている。
ここから、一気に映画に引き込まれる。 たった40数分の尺にもかかわらず、物語は二転三転四転し、 虚と実が交錯した果てに、ついに長いベロを出した妖怪が登場する! ホラーでもスプラッターでもない、正々堂々のスリラー映画だ。
──万田邦敏(映画監督)
すさまじい緊張感と不気味さ! 画面から目が一瞬も離せなかった。 現実と幻想の境目が曖昧になり、自分が何者かもわからなくなっていく 感覚が恐ろしい。カットが切り替わる瞬間、鳥肌が立つような衝撃がある。 怪談話でもあり、ミステリでもあり、純文学でもあり、 あらゆるジャンルを超越した 映画体験としか形容できない42分間だった。
──乙一(小説家)
次のカットが予測できない。 あたりまえのようにカットバックしたかと思うと、とてつもないカットが不意打ちしてきたりする。 それが、こんなに映画を面白くするなんて。 最高にスリリングで驚嘆しました。
──入江 悠(映画監督)
次に何が飛び出して来るか分からない、画面に映った役者さん達の佇まいが全員不穏な良質のホラー 映画。これを1日8時間撮影×4日間で撮影したという事実にインスパイアされる映画人はかなり多いハズ!
──松崎悠希(俳優)
鈴木睦海 西山真来 田中陸 松本高士 平仁 亀田梨紗 蒲池貴範
監督/脚本:酒井善三
撮影:川口諒太郎
照明:西山竜弘
録音/音響:鈴木万理
製作:百々保之
PG-12/2021年/日本/42分/カラー/シネスコ/DCP @drunkenbird2020
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