映画レビュー!映画『テレビで会えない芸人』芸人・松元ヒロの素顔から「言いたいことを言う」ことへの覚悟を見る

ライブを中心に政治や社会問題に関するネタを披露するお笑い芸人、松元ヒロに2019年から2021年にかけて密着したドキュメンタリー映画『テレビで会えない芸人』。「テレビで会えない芸人」を、敢えてテレビ局がドキュメンタリー作品製作として追っていくという異色のドキュメンタリーであります。

「テレビでは会えない」という男の舞台上での姿に、なぜ人々は注目するのか?どのように彼は自身の姿を形作ってきたのか?物語から紡がれるその真実からは、さまざまなことを想起させられます。今回は本作で語られる松元の真の姿、そしてそこから見えてくる現代の世への提言のようなメッセージを探ってみましょう。


【STORY】

芸人・松元ヒロ。彼はかつてコミックバンド「笑パーティー」では「お笑いスター誕生!!」で優勝、さらにコント集団「ザ・ニュースペーパー」では数々のテレビ番組にも出演と絶好調の時代を経ながらも、息子からの一言をきっかけに独立を決意し現在に至ります。

現在は年間約120本の舞台に出演、毎年春と秋に開催するソロ公演はチケットが入手困難になるほどの人気を集めているものの、テレビでその姿を見ることはありません。

彼がどのようないきさつで現在の活動形態へとたどり着いたのか、絶頂の時を迎えながら敢えて新たな道を進ませた、彼の息子からの一言とは?この作品では多くの人々からの支持を集める一人の芸人の素顔に迫ります。


【ここに注目】

松元ヒロの芸風、その注目されるポイントからすれば、ドキュメンタリー作品を見る側としてはその「彼の描き出すテーマ」という点にスポットが当てられるのでは?と勝手な憶測をしてしまいがちでありますが、本編ではどちらかというと松元自身の人間性、本質といった部分に迫る内容をメインとされており、その芸風に特化したテーマを期待する人には肩透かしに感じられるかもしれません。

しかし作品を深く考察すると、その「松元ヒロ」という一人の人間を知る、ということが実は大切なことであると理解でしょう。紆余曲折の人生をたどりながらも、彼のこれまでの道のりは芸人であること、芸人として様々な苦労をしたことを除けば、どこにでもいる人の良い人間にしか見えないでしょう。

人との出会いに感謝し大事にして日々を重ねる。彼の行動はごく当たり前のことであるはずですが、その姿からは近年のSNS社会、ネット社会における傾向とは異なるものが見えてきます。

SNSの発達でよく言われたこととして「誰もが自分の意見を言える」「言いたいことを言える」ということでした。

ところが、作中で松元本人も言っているとおり、実は実際そのようにはなっていないと見えるところもたくさんあります。実際に「言いたいことを言え」て、人はどこに何を発信するのか?匿名投稿ですら可能なSNSでの発信がどこまでその「言いたいことを言え」るという願望を真にかなえることができるのか?と尋ねられると、疑問すら沸いてきます。

物語で描かれる松元の人生は、芸人として奮闘しながらも、常に自身の道に自問自答し選択することで自分の歩む道を選択してきたことがわかります。そこには今の彼の芸風が単にインパクトだけを狙ってできたものではない、一貫した彼の思いが存在していることがうかがえます。

彼の舞台は、誰もが簡単に「言いたいことを言える」ものとして選択してしまう方法とは違う手法がとられており、だからこそ「言いたいことを言う」という願望に対して強い説得力を見せ、人を引き付けてやまない魅力があることがうかがえるでしょう。


【あわせてここが見どころ】

また、本作では松元が接した永六輔、立川談志らといった著名人との貴重なエピソード話が語られる場面があります。お話にしてしまえばたった数分のストーリーではありますが、彼がなぜ自身の道を選び歩んでいるのかを、改めてうかがい知ることでしょう。

彼がこの故人らと接した際に受けた思い、彼の個人に対する尊敬の念などからは客観的な視点から見えてくる、彼が芸人として生きる意味すら感じられてくるようであります。

先述の「SNS社会」を迎えた現在、その事実も合わせ近年は報道というジャンルの力、方向性という点において様々な問題が浮かび上がっており、その正当性すら問われる場面も多くなってきています。

そんな複雑な社会状況の中で、この作品で描かれる松元ヒロという男性の姿からは「言いたいことを言う」、その願望をかなえるために必要な覚悟、勇気、そしてそれを実現するために持つべき発言者の資質のようなものを提言として提示しているようでもあります。


出演:松元ヒロ

監督:四元良隆 牧祐樹

プロデューサー:阿武野勝彦

撮影:鈴木哉雄

編集:牧祐樹

音響効果:久保田吉根

整音:河合亮輔 宿野祐

デザイン:黒崎佳奈

音楽:吉俣良 「テレビで会えない芸人」サウンドトラック

Violin:真部裕

Cello:村中俊之

Accordion:佐藤芳明

Bass:ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)

Guitar:狩野良昭

Piano:吉俣良

Recording Engineer:伊藤敏雄

Musicians Coordinate:池内理紗(Stateless)

宣伝美術:渡辺純

web デザイン:古谷里美

予告篇編集:遠山慎二

協力:TBS TBSラジオ 日本テレビ 東阪企画 南日本新聞社 紀伊國屋ホール 東海サウンド 談志役場 橘蓮二 森岡甫宏

制作:前田俊広 山口修平 金子貴治 野元俊英 崎山雄二 荒田静彦

クレジットアニメーション:加藤久仁生

製作:鹿児島テレビ放送

配給:東風 2021 年

|81 分|日本|ドキュメンタリー ©2021 鹿児島テレビ放送

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ポレポレ東中野、第七藝術劇場、京都シネマにて公開中、ほか全国順次公開 


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