「2015年1月7日、フランス・パリの風刺週刊紙シャルリー・エブドの編集部にイスラム過激派テロリスト(IS)が襲撃し、風刺漫画家や記者ら合わせて12人を殺害した。
同紙に寄稿していたライターでもある監督のカロリーヌ・フレストが「シャルリー・エブド襲撃事件」で同僚を失った経験から長編劇映画の初監督作品として選んだテーマは、女性問題と過激派に関するものだった。」(作品プレスリリースより)
実話をもとに、ISによる残虐なテロとの戦いを舞台として極限状態に置かれた人々の人間模様を描いた映画『レッド・スネイク』。世界的な緊張状態が続く現在、映画作品としてもフィクション、ドキュメンタリー問わずさまざまな視点でこのISにまつわる戦いを取り上げた作品も多く排出される中、この作品はまた一つ新たな視点のテーマを作り上げています。今回はこの『レッド・スネイク』の見どころとともに、テーマの真意を探ってみましょう。
※シャルリー・エブド襲撃事件
以下、『BBC NEWS JAPAN』2020年9月26日の記事より。
【『レッド・スネイク』あらすじ】
イラク西部の少数派ヤジディ教徒の村。平和に暮らす人々はある日ISからの残虐な襲撃を受け、街に暮らしていた女性・ザラは父親を殺され、弟と生き別れ、自身は奴隷としてISのメンバーに売られてしまいます。しかし売られた先で屈辱的な生活を強いられる中、ザラはISのメンバーのもとから逃げ出し、「蛇の旅団」に救われます。
クルド人を支援している連合軍にさまざまな国の女性だけで構成される特殊部隊「蛇の旅団」。ISには古い言い伝えより「女性に殺されると天国に行けない」と信じられており、この「女性だけの部隊」を恐れていました。「蛇の旅団」に助けられたザラは自ら武器を取ることを決意、部隊に加わり兵士になるための厳しい訓練を受けます。
そして彼女は訓練を成し遂げ、自らのコードネームを「レッド・スネイク」として旅団の仲間である“姉妹たち”と共に前線へと赴いていくのでした。
【ここに注目!】
近年では1960~70年代に沸き上がった第二次フェミニズムの動きから、世界的に見ても女性問題という点は当然いまだに解決しているとはいえません。
特にこの1年、コロナ禍による影響により人々が表を歩くことも制限されがちになることで、近日「生理の貧困」などといった社会問題が騒がれる日本でもDV問題が深刻化、生活苦に立たされるシングルマザーの増加といった問題も浮上するなど、女性を取り巻く軋轢がかなり顕著になっています。
こういったことを踏まえると、情勢の不安定さ、世界的な不況などで女性は理不尽な方向に向けられることを余儀なくされたり、苦しい状況に陥ったりしがちであるということを改めて感じさせられます。
一方、ISなどのテロの惨事を取り上げた作品では、多くの場合はテロの犠牲者、難民という一括りにされがちで、フレスト監督が挙げた「女性問題と過激派」というテーマは、意外にも今までそれほどクローズアップされていない印象もあり、非常に特徴的でもあります。
特に本作品ではIS側の大義を隠れ蓑にした「男性」の卑劣な事情、行為一つ一つでこの問題をさらに明確にし、世界的動向とジェンダーとの関係にある課題を提起しているようでもあります。
女性が部隊への入隊を志願し、戦場に赴くという意味では、1997年の映画『G.I.ジェーン』を髣髴する印象もあります。男たちからの弾圧を受けた女性が立ち上がり反撃に向かう、という点では共通した視点もあり、女性ならではの目線、女性だからこそ賛同、共感できる目線が感じられる作品となっています。
【あわせてここが見どころ!】
当然この人間ドラマに欠かせないのが適任キャストの起用ですが、息詰まるバトルアクションの一方で見られる人々の表情も作品のテーマをより印象深いものとしています。
主演には両親がクルド人であり、クルド人の大義のために戦った著名なジャーナリストを父親に持つディラン・グウィン。つつましやかな「女性」から「強い女性」へと移り変わってゆくその豊かな表現力は、物語の共感性を最も強く表しているものであります。
さらに、イギリス出身のアミラ・カサール、イタリア出身のマヤ・サンサ、ポップシンガーとしても活躍するアルジェリア系フランス人のカメリア・ジョルダナ、『君の名前で僕を呼んで』のフランス人女優エステール・ガレルなど各国の名だたる女優たちを起用。女性が強くなるべきという一つのメッセージをより強固なものとしています。またこの人物同士の駆け引き的な演技も見どころの一つ。
またこういった実話ベースの物語ではなかなか作品の位置づけとしてバランスをとるのが難しく、エンタテイメント性を追求することを敢えて避ける傾向もありますが、砂漠での銃撃戦などは迫力満点。
このバランス感覚はあの『ランボー』シリーズのような、エンタテインメント性とメッセージ性両方に秀でたバランス感覚を持っているともいえるでしょう。今日を生き抜く女性たちには、是非見てもらいたい一本です!
Tex:ナン!でもニュース!!編集部
【作品情報】
監督・脚本:カロリーヌ・フレスト/撮影:ステファン・ヴァレ/編集:オドレイ・シモノー『96時間/レクイエム』
音楽:マチュー・ランボレ『英雄は嘘がお好き』
出演:ディラン・グウィン『ドラキュラZERO』、アミラ・カサール『君の名前で僕を呼んで』、マヤ・サンサ『眠れる美女』、
カメリア・ジョルダナ『不実な女と官能詩人』、エステール・ガレル『君の名前で僕を呼んで』
2019年/フランス、イタリア、ベルギー、モロッコ/英語ほか/スコープサイズ/5.1ch/112分
原題:Soeursd'armes
英題:SistersinArms
字幕翻訳:大嶋えいじ
PG12
配給:クロックワークス
©2019PlaceduMarchéProductions–Kador–DavisFilms–DéliceMovie–EaglePictures–France2Cinéma
公式サイト:https://klockworx-v.com/redsnake/
4月9日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー
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