映画レビュー!映画『明日に向かって笑え!』アルゼンチン発 負け犬たちの爽快逆転劇!

2001年にアルゼンチンで発生した金融危機をベースに、事件で自分たちの夢を奪われた人たちが、事件に乗じて悪巧みをたくらむ者たちへのリベンジを敢行する姿を描いた『明日に向かって笑え!』。アルゼンチンのテレビ界を代表するプロデュース、監督、脚本を手掛けてきたセバスティアン・ポレンステイン監督が作品を手掛け、アルゼンチンの名優リカルド・ダリンをはじめ国内の名だたる俳優陣がユーモラスながら俳優魂丸出しの迫真の演技で物語を盛り上げます。

作品は2019年アルゼンチン・アカデミー賞や2020年ゴヤ賞などスペイン語圏での映画祭で様々な受賞を果たすほか、2019年にサン・セバスティアン国際映画祭、トロント国際映画祭に正式出品されるなど多くの国際映画祭でも紹介され多くの反響を得ました。今回はこの『明日に向かって笑え!』の見どころとともに、テーマの真意を探ってみましょう。

※2001年アルゼンチン金融危機

1990年代には、兌換制(1ドル=1ペソの固定相場)の下で、自由開放経済政策を促進。この結果、ハイパーインフレの収束、投資の増加により、高い成長率を達成。しかし、1999年1月のブラジル金融危機の影響もあり、次第に景気が低迷し、2001年後半には金融不安が金融危機や全般的な経済危機に転化。

政府は対外債務の支払停止(デフォルト)、兌換制の放棄(自由変動相場制への移行)を行った。経済危機と外貨不足の中、2001年12月に、アルゼンチン政府は、支払のための外貨不足から1320億ドルにのぼる公的債務の一時支払停止を宣言。 これによりアルゼンチン金融危機が表面化した。

※参考:外務省公式サイト基礎データより


【『明日に向かって笑え!』あらすじ】

とあるアルゼンチンの小さな田舎町。2001年、元サッカー選手のフェルミン(リカルド・ダリン)は妻とともに近所の親しい住人たちに協力を請い。放置状態の農業施設を復活させるべく、みなで貯金を出し合って夢の実現に励んでいました。

ところが銀行の支店長に勧められその資金を銀行に預けた翌日、アルゼンチンは金融危機に見舞われたことにより預金封鎖が実施され、住民たちの預金が凍結されてしまいます。さらにその事件を事前に知り、混乱につけ込んだ銀行と弁護士は顧客の預金をだまし取ってしまいます。これによりフェルミンたちは集めたお金も失い、無一文に。

真相を知って途方に暮れた彼らは偶然知ったある情報をもとに、奪われた財産を取り戻すためある奇抜な作戦を実行に移していくのでした…

【ここに注目!】

この作品は金融危機という一大事、そしてそれに便乗して悪事をたくらむものに対して、自ら立ち上がっていく人々の姿をユーモラスに描いており、ある意味オーストラリアの作家トニー・ケンリックが描いたスラップスティック・コメディーのような雰囲気を髣髴するものでもあります。

一方でこの作品で最も重要な点としては、人々が「自ら立ち上がる」姿を描いているところにあります。大きな危機を目の前にしたとき、その壁に対して泣き寝入りをしてしまう、あるいはあくまで正論を押し通して戦うなど、様々な対応の仕方があることでしょう。

これに対し本作では、ある意味「目には目を」的な意思によって自分たちの権利を得ようとします。決して彼らの起こす行動が正しいかといえば批判的な意見も出ることでしょう。しかし現在世界で発生する様々な問題に対して「あなたならどうするか」という問いを投げかけているかのようでもあります。

例えばここにはアルゼンチンというお国柄が反映されているのかもしれませんが、ふと現れる「ペロン主義」「ミハイル・バクーニン」といったキーワードには、個々の人々が抱く信仰に対する思いの強さも感じられ、力に対して力で立ち向かうような意志の強さ、自分たちの自由を本気で得ようとする真剣さが、笑いの一方で垣間見られることでしょう。

ちなみに本作は2019年11日にアルゼンチンで公開され、2019年製作アルゼンチン映画(洋画以外)のトップ興行収入・動員人数を記録。国内ではその物語に大きな反響を得ています。例えばこれが日本の場合であればどうだろうか?あるいは彼らのように戦ってみるとどうなのか?様々な思惑を巡らせながらストーリーを追うと、非常に趣深い作品となることは間違いありません。

なお金融危機に見舞われた、あるいは社会的政策にて金銭を失った人々を描いたものとしては、韓国の『国家が破産する日』(2018)や、ドイツの『グッバイ・レーニン!』(2003)などもあり、是非合わせてご覧になるとさらに深い思慮をはべらせることができるでしょう。


【あわせてここが見どころ!】

主人公フェルミン・ペルラッシを演じたフェルミン・ペルラッシは本国アルゼンチンはもとより世界的に活動する俳優で、フェルミンの息子役を演じたチノ・ダリンと実際の親子でもあります。劇中ではいい意味でその関係を封印し、「役者同士」という立場で感情をぶつけ合うような競演を果たしているのが非常に印象的です。

また物語はジャンル的にはコメディーでありながら笑いきれないシリアスな空気を同時に醸しており、どこか滑稽な行動をみな一堂に真剣な表情で向き合っているところに、アルゼンチンの歴史の中であった大きな出来事に対しての深いメッセージ性を感じるところであります。一方で自身の運命に立ち向かう人々それぞれの人間的な温かさが見られる点には、この奇想天外な展開をポジティブに受け取れる要因があるといえるでしょう。

大きな壁が目の前に立ちはだかるとき、人はどのようにそこに向き合うべきなのか?ユーモラスな作戦の中にその答えを探すヒントは隠されているかもしれません。

Tex:ナン!でもニュース!!編集部


【作品情報】

監督・脚本:セバスティアン・ボレンステイン/原作・脚本:エドゥアルド・サチェリ

出演:リカルド・ダリン『NINE QUEENS 華麗なる詐欺師たち』『人生スイッチ』『サミット』

ルイス・ブランドーニ『ゲット・アライブ』『4×4 殺人四駆』『El Cuento de las Comadrejas』

チノ・ダリン『熱力学の法則』『永遠に僕のもの』『12年の長い夜』

ベロニカ・ジナス『Historia de un Clan』『La Mujer de los Perros』『La Flor』

2019年/アルゼンチン/スコープサイズ/5.1ch/128分

原題:La odisea de los Giles

英題:HEROIC LOSERS

字幕翻訳:根本理恵

配給:ツイン

(C) 2019 CJ ENM CORPORATION, DEXTER STUDIOS & DEXTER PICTURES ALL RIGHTS RESERVED

公式サイト:https://gaga.ne.jp/asuniwarae/

8月6日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国ロードショー

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